狼は昔から、あたん(執念深い仕返し)をすると言われています。 その、むかし、一之瀬の桃之木原に、たいへん鉄砲のうまい猟師が住んでおりました。ある冬のこと、この猟師は、 子連れの狼を見つけ、腕にものを言わせてものの見事に、親狼の方を一発でうち殺してしまいました。 それを知った村人は、「子の方も殺しておけばよかったに。いづれあの狼があたんするだろう。」と、うわさし合い、 恐れていました。 それから数年たった夏のこと、村山の水晶谷へ、一日、村の人々は山の木の手入れに行きました。 「どうぞ、あの子狼が、あたんしないように」と、それを恐れる人たちは、山の谷口で仕事をして奥の方へは行こう としませんでした。 しかし、あの猟師たち2〜3人は、水晶谷の奥深くへ入り込み、仕事をしていました。ちょうどみんながお昼の弁当 を食べようと話をしていた時のことです。山奥の方から、「ギャー、助けてくれ!」という悲鳴がおこりました。 人々は、「狼が出たんや、あの狼が」と、手に手にカマやナタや棒きれを持ってかけつけました。 するとどうでしょう。他の人たちはいち早く木に登って、狼からのがれていましたが、当の猟師は、木に登りきれず、 狼に足や体を食いつかれ、死にもの狂いでわめいていました。猟師が持っていた道具は狼のために砕かれ、弁当箱は形 もわからないほど食いちぎられ、見るも無惨なようすでした。猟師は命はとりとめましたが、あちこちに傷を負い、 永らく床についていたということです。
狼が猟師に仕返しをするものがたりです。