おまんは、それはそれは働き者で力持ちで、たちまち村中の評判になりました。牛のように力持ちで、からすきを手で
引っ張って田を耕してしまうのです。

 ところが、「こんな女は、この先なにをするかわからん。」と、近所の人々は恐れるようになりました。村の人たちも、
「今のうちに帰してしまえ。」と、さかんに云うようになりました。弥八の家がみるみる豊かになっていくのをねたんだ
のかも知れません。

 弥八は、ついに帰すことに決めました。村人たちの口にさからうことができず、そこでおまんは、泣く泣く帰されてい
ったということです。おまんはそれからどうしたことやら、何もわかっていません。

 今から百二十年以上も昔のことです。

 一之瀬に弥八という男がいました。ある年のこと、母の病が治ったお礼にと、京まいりをしました。
 
 無事におまいりをすませて帰る途中、大津の宿に泊まりました。そこにはおまんという大柄で力持ちの女中がいて、十人分の食事も一度に運ぶというありさまで、これを見た弥八はもうびっくりしてしまいました。

 「そうじゃ、この女を嫁にして連れて帰ったら、おっかあもきっと働き者と云ってよろこぶに違いない。」と思った弥八は、「おれは美濃の百姓じゃが、おれの嫁にならぬか。」と、話をもちかけました。

 すると女は、「そんなこと云ってくれる人はあなたが初めてです。うれしいけど、私は年季奉公の身です。あと、2年したら迎えに来てくだされ。」と云いました。

 弥八はどうしたことか、こんなことも忘れて山仕事に精を出していたある年の暮れ、ひょっこりおまんがやって来ました。あちらこちら尋ね歩いて来たというのです。弥八は、はにかみながら家族にわけを話して家に入れることにしました。

働き者のおまんの悲しいものがたりです。

川東 昔ばなし
落ち武者のたたり